大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

函館地方裁判所 昭和43年(行ウ)31号 判決

原告

山崎成彬

外七一名

代理人

林信一

外五名

被告

八雲町

代理人

山根喬

外六名

主文

被告は原告らに対し、別紙第二債権目録合計欄記載の金員およびこれに対する昭和四三年八月二三日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告武田富美子、同川口正征、同武越由良子、同富田不死子および同三品豊作のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告らが、その主張のとおりの小、中学校に勤務している教員であること、およびこれらの学校はいずれも被告が学校教育法第二条に基いて設置したものであることは当事者間に争いがない。

二(一)  また原告らが、別紙第三時間外勤務明細一覧表年月日欄記載の日に、一日八時間の勤務時間を超えて同表時間外勤務明細欄記載の時間職員会議に出席したことも次に述べる原告ら五名の分を除いて当事者間に争いがない。

(二)  原告武田富美子(原告番号18)、同川口正征(同21)、同武越由良子(同28)および同富田不死子(同24)が昭和四二年四月二七日にならびに同三品豊作(同30)が同年九月二七日に各勤務校の職員会議に出席したことについては被告は否認しているので、このことについて判断すると、原告主張事実を認めるに足りる証拠がないから、これら五名の原告が右の主張の日に時間外に職員会議に出席したことを理由とする時間外勤務手当の請求は以下の点について検討するまでもなく理由がないから棄却することとする。

従つて、以下の検討は原告らのその余の請求についてなすものである。

三そこでまず、職員会議に出席することが原告らの職務であるかどうか、原告らが職員会議に出席したのがそれぞれの勤務校の校長の指示(職務命令)によつたものであるかどうかを順次検討することにする。

(一)  証人新明幸一郎の証言および原告莇田志郎(原告番号57)の本人尋問の結果によれば、昭和四二、三年頃の八雲町立八雲小学校(前記のとおり原告番号38ないし72の原告らが勤務している小学校である。)における職員会議の運用の実態について次の事実が認められ、これに反する格別の証拠はない。

1  職員会議には月に一度定期的に開催される月例のものと必要に応じて開催される臨時のものとがあり、しばしば月に二、三回開催されていた。

2  職員会議の召集権者は校長であり、召集の通知は、通常職員室の黒板に開催の日時を記載することによつてなされていたが、時には口頭の通知によつてなされることもあつた。

3  職員会議の出席者は、校長、教頭、教員および事務職員であつたが、事務職員を除いて校務その他格別の用事のないものは全員出席する建前であり、実際にも格別の用事がないのに欠席するものはなかつた。司会は教員が輪番で担当し、議長ないし進行係の役割を果たしていた。

4  職員会議の議題は、概略的にいえば、年度はじめのものであれば各職員の校務の分掌の確定、年間の行事計画の決定、学校運営の基本方針の樹立等であり、月例のものであれば翌月の行事計画の確定等が主たるものであつたといえる。これを内容的にさらに若干細別してみると、第一に、本来校長の職務権限に属する入退学、進級、懲戒等生徒に対する処分に関する事項および対内的、対外的な通知確認事務に関する事項、第二に、本来各教員の職務権限に属する生徒に対する授業、生活指導、健康指導、運動会、文化祭その他の教育活動に関する事項ならびに第三に、本来誰の職務権限に属するということもないが、学校予算についての要望や父兄会に対する各職員の対処方法等々学校運営上重要な事項の三つに分類される。これらは、要するに、学校運営および教育活動を円滑かつ効果的に行ううえで重要な諸問題のすべての事項にわたることになり、これらの事項が職員会議の審議の対象とされていた。また、職員会議は前記の事項についての討論決議の場であつたのみならず、各種の学校事務についての報告連絡等の場でもあつた。

5  職員会議の結果は学校の公式の簿冊である職員会議録に記録され、その決定事項は校長の学校運営に際してはもちろん教員が各種教育活動をする際にも尊重されており、事実上一種の拘束力を有していた。

6  職員会議は、通常授業の終了したいわゆる放課後である平日の午後三時ないし三時半ごろから始まり、正規の勤務時間内に終ることを建前としていたが、一時間ないし一時間半くらい正規の勤務時間を超えて行なわれることが多かつた。勤務時間を超えて続行する際には司会者が続行することについて出席者の意向を打診したこともあつたが、通常出席した教員はもとより校長からも続行することについて格別の異議が申し立てられたことはなかつた。もつとも、近年本件類似の訴訟が全国各地で提起されるや、校長はできる限り勤務時間内に終了するよう指導するようになつた。正規の勤務時間を超えて職員会議が続行された場合、勤務時間の内外によりその審議内容、審議方法等に何らかの差異が生じることはなかつた。

(二)  以上は八雲小学校における職員会議の概略であるが、前記証拠によれば、八雲小学校以外の原告らの勤務する学校における職員会議の内容や運営方法も右小学校のそれとほぼ同様であつたことが認められ、これに反する格別の証拠はない。

(三)  職員会議については、現行法規上明確な規定がなく、その性格について一義的に述べることは困難であるけれども、前記認定事実を総合すれば、少くとも原告らの各勤務校において職員会議が学校運営上および教育活動上極めて重要な機能を有し、必要不可欠な機関であつたことは疑う余地がなく、たまたま何らかの事情である教員が欠席した場合には当該職員の教育活動に支障を来たすおそれがあることは十分予想されるのであつて、いわんやこれに出席することが教員の職務でなく、出席すると否とが各自の任意であるとして、すべての教員が欠席するようなことになれば、学校運営上および教育活動上著しい支障が生ずることはいうまでもない。このように考えてみると、教員が職員会議に出席することは児童、生徒の教育のために不可欠のものであるというべく、「児童、生徒の教育を掌る」ことを職務とする(学校教育法第二八条第四項、第四〇条参照)原告ら教員の職務の範囲に含まれていると解するを相当とする。

そして、勤務時間の内外によつて職員会議の内容、運営方法等に何らの差異も生じなかつたことは前記認定のとおりであるから、教員が正規の勤務時間を超えて職員会議に出席した場合、正規の勤務時間内の場合と同様職務として出席しているものと解するを相当とする。

(四)  そして、職員会議が前記認定のような内容および運営方法をもつものとすれば、それは、学校教育法第二八条第三項または第四〇条の規定により校務を掌理する校長がその権限により必要に応じて召集し主宰していたものと解するほかはないから、原告らは当該勤務校の校長の召集に基づく明示的ないし黙示的な職務命令に従つて職員会議に出席していたと認めるを相当とし、このことは勤務時間の内外を問わず妥当する。勤務時間を超えて職員会議を続行する際、司会者が出席者の意向を打診し、これに対し出席していた教員が異議を述べず、または積極的に同意して続行された場合であつてもこのことから、直ちに正規の勤務時間を超える職員会議への出席が教員のまつたく任意の自発的奉仕行為であると解するのは相当でない。正規の勤務時間を超えて職員会議が続行された場合において、これを召集し主宰している校長が続行につき異議を述べたり終了を宣言するなどして勤務時間を超えて職員会議に出席すべき命令を出さないことを明らかにしないかぎりは、教員は、校長の勤務時間を超えて職員会議に出席せよとの明示的ないし黙示的な職務命令に従つて職務として時間外勤務をしていたものと認めるを相当とする。

(五)  ちなみに、法令上校長に正規の勤務時間を超えて職員会議に出席せよとの職務命令を発する権限があつたかどうか、又このような命令に教員が従う義務があつたかどうかという問題は、本件の時間外勤務手当の請求の可否を決するうえでは重要な問題ではない。すなわち、本件においては、本件時間外勤務が時間外勤務手当を支給すべき労働であるか否かだけが問題なのであるから、正規の勤務時間を超えて職員会議に出席することが教員の正当な職務に含まれているかどうかおよびその出席が校長の事実上の職務命令によつたものであるかどうかだけを検討すれば十分である。

(六)  よつて、原告らの本件時間外勤務は各勤務校の校長の職務命令によつたものと認められる。

四ところで、校長は「校務を掌り、所属職員を監督する」権限を有する(学校教育法第二八条第三項、第四〇条参照)各学校における最高管理権者であるから、上司として所属教員に対し労務管理事務を行うものであるということができる。したがつて、法令上校長が教員に対し時間外勤務命令を発する権限を有しているかどうかに関係なく、事実上上司である校長から指示命令を受け、事実上これに拘束されることがありうる教員について労働基準法上の諸権利を享受させるためには、校長は同法第一〇条にいう「使用者」に該当すると解しなければならない。

五つぎに、被告は、本件のような時間外勤務については教員は時間外勤務手当請求権を放棄するないしは行使しないという事実たる慣習があると反論しているので、これについて検討する。

(一)  まず、公立学校の教員が労働基準法の制定施行された昭和二二年以来今日まで時間外勤務手当請求権を行使しなかつたかどうかについて検討することとする。

<証拠>によれば、昭和四〇年前後まで原告らも含めて公立学校の教員は明確かつ具体的に時間外勤務手当請求権を行使したことは殆んどなかつたこと、しかし、これは公立学校の教員の間に時間外勤務手当請求権は行使しないという通念があつたことに由来するのではなく、ただ国ないし地方公共団体が時間外勤務手当についての予算措置を講ぜず、また若干なりともあつた支払いの要望に対してもまつたく支払おうとしなかつたことおよび一部については支払義務者が誰であるか必らずしも明らかと言い難かつたこと等に由来するものであつて、公立学校の教員の時間外勤務手当請求権を如何に扱うかは昭和二五、六年ころから今日まで国、各地方公共団体と教員間の懸案になつていたこと、この状況を北海道についてみると、昭和四六年現在で約三万人の組合員を有し、北海道における教員の大半が加入していると推測される北海道教職員組合において組合員の時間外勤務手当支払要求が組織化されたのは昭和二七年ころであり、同組合の執行部が北海道教育委員会に対する教育予算および賃金についての要求中は時間外勤務手当の支払いを具体的かつ明確に位置づけて要求したのは昭和三八年ころであり、以来同組合は今日まで時間外勤務手当の支払いについて要求、交渉を続けていることが認められる。乙第一号証中以上の認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定事実によれば、公立学校の教員が従来時間外勤務手当請求権を行使したことがなかつたとは断じ難く、まして被告の主張するような事実たる慣習の存在を認めることはできない。

(二)  仮りに従前時間外勤務手当の支払がなされたことがないことをもつて、被告の主張する事実たる慣習があつたものと認められるとしても、労働条件の基準を定める労働基準法の規定が強行法規であることは、同法第一三条の規定によつて明らかであるから、時間外労働に関する割増賃金の支払義務を定める労働基準法の規定は公の秩序であつて、これに反する慣習は効力を有しないものというべきである(最高裁昭和四七年四月六日第一小法廷判決参照)

六そうすると、原告ら公立学校の教員については、教育公務員特例法第三条、地方公務員法第五八条によつて労働基準法第三七条の規定が適用されることになるから、原告らは、本件時間外勤務につき時間外勤務手当請求権を有することになるので、次に、その支払義務者が誰であるかを検討することとする。学校教育法第五条によれば、学校の設置者は法令に特別の定のある場合を除いてはその学校の経費を負担することと定められており、教員の時間外勤務手当が学校の経費に含まれることは明らかである。そして、市町村立学校職員給与負担法第一条によれば、市町村立学校の教員に支給すべき本俸および予想される殆んどの各種諸手当は各都道府県の負担とする旨規定しているところからみれば、時間外勤務手当も都道府県の負担となるのではないかとの疑問が生じないわけではない。しかし、時間外勤務手当については、同条がわざわざ教員に対するものを除外して事務職員に対するもののみを各都道府県の負担とする旨規定しているところからみれば、同法は教員の時間外勤務手当については都道府県の負担とする趣旨ではないものと解される。当事者間に争いのない事実すなわち、北海道人事委員会が市町村立学校の教員に支給すべき時間外勤務手当は各市町村において負担すべきであつて北海道が負担すべきものでないと判定(昭和三八年((措))第八号)していることも右の解釈に符合するものである。そして、他に教員の時間外勤務手当の負担者を定めた法令は存在しない。

そうすると本件時間外勤務手当は原告らの各勤務校の設置者である被告が負担すべきこととなる。

七次に原告らのそれぞれの時間外勤務手当額を算出することとする。

原告らに対する本件時間外勤務に対する一時間当りの手当額が別紙第三時間外勤務明細一覧表の単価欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

また、原告らに対する時間外勤務手当の算出方式が、原告らの主張する北海道人事委員会規則に定める時間計算方式によること、右方式によれば、本件時間外勤務がこれに対する手当額の算出上前記一覧表時間数欄記載の整数として計算されることは、当事者間に争いがない。

よつて、本件時間外勤務に対する原告らの時間外勤務手当額を右の計算方法により計算すると、別紙第二債権目録時間外勤務手当欄記載のとおりとなる。

八次に、附加金請求について判断する。

被告が原告らに対し、前記の時間外勤務手当を支払つてないことは弁論の全趣旨により明らかであり、また支払わなかつたことについて格別の正当性を認めるべき証拠はないから、労働基準法第一一四条によつて被告は原告らに対し右時間外勤務手当と同額の附加金を支払うべき義務があると認められるところ、原告らのうち附加金の一部請求をしているものがあるので、これらの原告に対してはその請求の範囲内で附加金の支払いをなすことを被告に命ずることとするから、結局、被告は原告らに対し別紙第二債権目録附加金欄記載の附加金を支払わなければならないこととなる。

九最後に、時間外勤務手当および附加金に対する遅延損害金につき考える。

まず、時間外勤務手当支払義務が遅くとも本件訴状送達の時までに履行遅滞に陥つていることは明らかである。けれども、附加金支払義務がいつ履行遅滞に陥るかについては疑義があるので、これにつき検討する。

結論をさきにいえば、当裁判所は、労働基準法第一一四条所定の附加金支払義務は、使用者が同法所定の解雇予告手当等の支払義務を正当な理由なくして履行しない場合において労働者が附加金の支払を裁判所に請求した時点から遅滞に陥るものと解する。その理由は次のとおりである。

労働基準法第一一四条が附加金の支払を認めた趣旨は、主として同法所定の解雇予告手当等の支払義務の不履行に対して使用者に一般の遅延損害金のほかに附加金の支払義務を課することによつて解雇予告手当等の支払を確保しようとすることにあり、この意味において附加金は一種の民事的制裁の性質を有するものということができよう。しかし、同条は、これに加えて、解雇予告手当等の支払義務の不履行によつて一般の遅延損害金では償い得ない損害が労働者に発生することを想定し、これをてん補するものとして附加金の支払を使用者に命じたものと解することができ、この意味では附加金は損害賠償の性質を有すると考えられ、結局附加金は民事的制裁の性質とともに損害賠償の性質をもあわせ有するものと解するのが相当である。このように考えると、損害賠償という私法上の債務としての性質をも有する附加金が裁判所の命令によつて始めて発生すると解することは、通常の私法上の債務のあり方としてきわめて異例の事態であつて妥当ではなく、附加金請求権は裁判所の命令以前に存在するものと解されなければならない。そして、同条が「裁判所は、……労働者の請求により、……附加金の支払を命ずることができる。」と規定している点からみると、附加金請求権は、解雇予告手当等の不払があつても当然に発生するものではなく、労働者が附加金の支払を裁判所に請求して始めて発生し、その時以降遅滞に陥いるものと解するのが相当である。もつとも、最高裁判所昭和三五年三月一一日判決(民集一四巻三号四〇三頁)は、「労働基準法一一四条の附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによつて、初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基準法二〇条の違反があつても、既に予告手当に相当する金額の支払を完了し使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による附加金請求の申立をすることができないものと解すべきである。」と判示しており、附加金支払義務は裁判所が支払を命じることによつて初めて発生するものとしたもののように解されないでもないけれども、同判決は使用者が予告手当を支払つた後に附加金請求の申立てをしたのに対しこれを排斥した事案に対するものであつて、本件に適切なものとはいえず、当裁判所の前記の見解は右の最高裁判所の判決に牴触するものではないと考えられる。ひるがえつて、実質的に考えても、附加金請求権が裁判所の支払命令によつて初めて発生するものとすれば、本件のように労働者が解雇予告手当等とあわせて附加金請求の申立てをしている場合に、使用者が口頭弁論終結間際になつてから解雇予告手当等を支払つたときには附加金の請求は棄却せざるを得ない結果となり、前記の附加金制度を設けた趣旨からみてその不当なることはいうをまたない。これに対し、当裁判所の前記のような見解をとれば、労働基準法の規定の文言にも適合し、また附加金制度の趣旨にも適合するのである。

一〇結論

そうすると、被告は、原告らに対し、時間外勤務手当および附加金として別紙第二債権目録合計欄記載の金員およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四三年八月二三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。よつて、原告らの請求は、この限度で理由があるからこれを認容することとし、原告武田富美子、同川口正征、同武越由良子、同富田不死子および同三品豊作のその余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条ただし書を適用し、主文のとおり判決する。

(新海順次 今井功 伊藤剛)

<別紙省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!